生の魚介類を食べるときに心配されるのが「アニサキスによる食中毒」です。
実際にアニサキスが体内に入ると、激しい腹痛や吐き気を引き起こし、放置すれば症状が悪化することもあります。
「加熱すれば本当に安全なのか?」
「冷凍や酢でも予防できるのか?」
「もし感染したら、どう対応すればいいのか?」
この記事では、アニサキスを確実に死滅させる加熱条件や予防方法をわかりやすく解説し、さらに症状が出たときの正しい行動と当院での対応をご紹介します。
アニサキスは加熱で死ぬの?

アニサキスは生の魚介類に寄生する寄生虫で、食中毒の原因として知られています。
「加熱すれば大丈夫なの?」という疑問を持つ方は多いでしょう。結論から言うと、アニサキスは適切な加熱を行えば完全に死滅します。以下では、その温度と時間の根拠や、調理法ごとの注意点を解説します。
60℃で1分、70℃以上で瞬時に死滅する根拠
厚生労働省や食品安全委員会のデータによると、アニサキスは以下の条件で死滅することが確認されています。
・60℃で1分以上の加熱
・70℃以上では瞬時に死滅
つまり、しっかりと加熱すれば家庭調理でも十分に安全性を確保できます。逆に、中心部まで十分に火が通っていない状態ではリスクが残るため、刺身やレア調理では注意が必要です。
電子レンジ調理は効果がある?家庭での注意点
電子レンジも加熱方法のひとつですが、加熱のムラが起こりやすい点に注意が必要です。
部分的には60℃以上に達していても、中心や厚みのある部分が低温のまま残ってしまう場合があります。
・加熱する際は全体が均一に温まるように加熱時間を十分にとる
・厚みのある切り身は途中で位置を変える・裏返すなど工夫が大切です
「電子レンジだけで完全に安全」とは言えないため、可能であれば焼き物や煮物など、全体に熱が行き渡る調理法を選んだ方が安心です。
焼き魚・煮魚・フライなど調理法ごとの安全性
アニサキスを安全に予防するには、魚の中心部までしっかり加熱することが最重要です。調理法ごとのポイントは以下の通りです。
焼き魚
中まで火が通るまで十分に加熱すれば安全。表面だけ焦げて中が生焼けにならないよう注意。
煮魚
加熱時間が長く、全体に熱が伝わりやすいため比較的安全性が高い。
フライ(揚げ物)
高温で短時間でも中心温度が70℃以上に達するため、完全に火が通れば死滅可能。
蒸し料理
全体を均一に加熱できるため効果的。
いずれも「中心温度60℃以上で1分以上」を目安に調理すれば、アニサキスによる食中毒の心配はほぼありません。
加熱以外の予防方法はある?
「生で食べたいけれど、加熱以外に安全にする方法はないの?」と考える方も少なくありません。アニサキスのリスクを減らすには冷凍や処理方法も有効ですが、それぞれに限界があるため正しい理解が必要です。
冷凍(−20℃で24時間以上)の有効性と限界
厚生労働省の基準では、−20℃で24時間以上冷凍するとアニサキスは死滅するとされています。
市販の冷凍用設備(業務用冷凍庫や急速冷凍機)ではこの条件が満たされるため、冷凍された魚介類は安全性が高いといえます。
ただし注意点もあります。
・一般家庭の冷凍庫は温度が安定せず、マイナス20℃を維持できない場合がある
・冷凍時間が短いと、アニサキスが生き残る可能性がある
・冷凍により魚の食感や風味が損なわれやすい
そのため「家庭の冷凍庫で一晩凍らせれば安全」とは限らない点に注意しましょう。
内臓の除去や目視確認の注意点
アニサキスは魚の内臓に多く寄生しています。
漁獲後すぐに内臓を取り除けばリスクを下げられるのは事実です。
しかし、時間が経つとアニサキスは内臓から筋肉(身の部分)へ移動してしまいます。そのため、たとえ内臓を除去しても完全に防げるわけではありません。
また、白く細長い虫体が肉眼で見える場合もありますが、すべてを確実に発見するのは困難です。小さなものや身の奥に入り込んだものは見落としてしまう可能性があります。
👉 したがって「内臓除去・目視確認」は補助的な方法と考え、加熱や冷凍と組み合わせることが重要です。
酢やわさびは効果がない理由
「酢でしめれば大丈夫」「わさびや醤油が殺菌してくれる」と思っている方もいますが、これは誤解です。
・酢・醤油・わさびではアニサキスは死滅しません
・アニサキスは酸や調味料に耐性があり、数時間浸しても生き続けることが確認されています
・実際に、しめサバや酢漬けのイカなどからの食中毒事例も報告されています
つまり、味付けや調味料は「風味や食感を変える効果はあっても、寄生虫対策にはならない」のです。
アニサキスに感染したらどんな症状が出る?

アニサキスは魚介類を生で食べた後に、体内に入り込むことで症状を引き起こします。
すべての人に症状が出るわけではありませんが、発症すると強い腹痛や嘔吐を伴うことが多く、放置すると重症化するケースもあります。ここでは代表的な症状を解説します。
胃アニサキス症の典型症状(激しい腹痛・嘔吐)
もっとも多いのが胃アニサキス症です。
アニサキスが胃の粘膜に侵入すると、次のような症状が現れます。
・食後数時間で突然始まる激しい上腹部の痛み
・吐き気や嘔吐を伴うことがある
・痛みが波のように強弱を繰り返すのが特徴
この痛みは「差し込むような痛み」と表現されるほど強烈で、市販の胃薬では改善しません。
腸アニサキス症の症状(腸閉塞様の痛みなど)
まれにアニサキスが腸に入り込むことがあり、これを腸アニサキス症と呼びます。
・下腹部の激しい痛み
・腸閉塞に似た腹部膨満感
・嘔吐や発熱を伴うこともある
腸の粘膜に深く食い込むと炎症が強くなり、場合によっては外科的処置が必要になることもあります。
発症タイミングは食後数時間〜翌日が多い
症状が現れるタイミングは比較的早く、食後数時間〜数十時間以内に発症することが多いです。
胃アニサキス症
食後数時間以内に起こることが多い
腸アニサキス症
発症が遅れて翌日以降に症状が出る場合もある
「生魚を食べてから急にお腹が痛くなった」という場合、アニサキス症を疑うきっかけになります。
症状が出たときの正しい対応

「生魚を食べたあと急にお腹が痛くなった」「吐き気が治まらない」——そんなときにまず気になるのは「自宅で様子を見ていいのか、それとも病院に行くべきなのか」という点です。アニサキス症は自然に改善する場合もありますが、自己判断で放置すると痛みが続いたり、重症化するリスクもあります。ここでは、症状が出たときの正しい行動を整理します。
自宅でできること・できないこと
まず前提として、自宅でアニサキスを取り除くことはできません。
胃や腸の粘膜に潜り込んだ虫体を自力で排除する手段はなく、薬も基本的に効果がありません。
【できること】
・症状や食べたものを記録しておく(診察時に役立ちます)
・水分を少しずつ摂り、脱水を防ぐ
【できないこと】
・胃薬や整腸剤での改善は期待できない
・市販の下痢止めや吐き気止めも根本解決にはならない
👉 強い腹痛や吐き気がある場合は、自宅で様子を見るのではなく早めの受診が必要です。
医療機関で行う内視鏡検査と虫体除去
アニサキス症の確実な治療は、内視鏡検査で虫体を直接確認し、鉗子で除去することです。
・胃アニサキス症では、胃カメラで虫体を発見し、その場で摘出可能
・虫体を取り除くと、ほとんどの場合すぐに激しい痛みが改善する
・腸アニサキス症の場合も、検査と診断により適切な治療が行われる
当院でも消化器内視鏡を用いた迅速な診断・処置を行っており、受診後すぐに症状が楽になるケースも多くあります。
受診を迷わず早めにすべき理由
アニサキス症の痛みは非常に強く、自然に治るまで数日以上かかることもあります。
また、腸に侵入した場合は炎症や腸閉塞のリスクもあり、放置すると症状が悪化することも。
・早期受診なら、その日のうちに内視鏡で治療が可能
・放置すると仕事や日常生活に支障をきたす
・強い痛みが続くことで体力を消耗するリスクもある
👉 「食後に強いお腹の痛み」+「生魚を食べた直後」という状況なら、迷わず医療機関を受診することが最善です。
当院のアニサキス症対応について
「加熱で予防できるのは分かったけれど、もし感染してしまったらどうしよう…」という不安に対して、当院では迅速な診断と治療を行える体制を整えています。安心して受診いただけるよう、専門性と対応方法をご紹介します。
消化器内視鏡専門医による迅速な診断と処置
当院では、消化器内視鏡を専門とする医師が診察・検査を担当しています。
アニサキス症が疑われる場合は、胃カメラによって虫体を直接確認し、鉗子で除去することが可能です。
・検査と同時に虫体を取り除けるため、その場で症状が改善するケースが多い
・胃だけでなく腸に疑いがある場合も、経験豊富な医師が適切に診断
・強い痛みで来院された患者様にも、迅速な対応で安心感を提供
「強い腹痛で動けない…」という状態でも、専門医による内視鏡処置が最短の解決方法になります。
お電話での予約・受診方法について
アニサキス症は突然の発症が多い疾患です。そのため、症状が出たら迷わずご連絡ください。
お電話で「生魚を食べたあと強いお腹の痛みがある」とお伝えいただければ、優先的に内視鏡検査へご案内します
初めての方でも、症状をお伺いしたうえでスムーズに受診可能です
夜間や休日に症状が出た場合も、できるだけ早めのご連絡・ご来院をおすすめします
症状が強い場合は迷わずお電話ください。迅速な診断・処置で、つらい痛みから解放されるサポートをいたします。