胃がんは胃の内側にある粘膜細胞が、何らかの原因でがん細胞になり、どんどん広がっていく病気です。そのままにしていると胃の外側に向かって進んでいき、胃の周りにある大腸や膵臓、肝臓などに広がっていきます。さらに進行すると、お腹の中にがん細胞が散らばったり(腹膜播種)、血液やリンパ液の流れに乗って離れた臓器に転移したりし、全身に広がっていきます。
胃がんはかつて日本人のがん死亡のなかで一番多い病気でした。近年は減少傾向にありますが、2022年の厚生労働省の調査では肺がん、大腸がんに次いで3番目に死亡者が多く、まだまだ油断できない病気です。また胃がんになる人自体は多く、2019年の全国がん登録罹患データでは、男性は10人に1人、女性は21人に1人が生涯のうちに胃がんにかかると言われています。
今日では内視鏡検査(胃カメラ)の普及により、早期がんの状態で発見され速やかに治療が行われることも多くなりましたが、進行した状態で発見され命に関わるような状態になってしまっていることも多々あります。
胃がんの原因は複雑で、様々な要因が関わっています。まず挙げられるのは、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染です。ヘリコバクター・ピロリは子供の頃に感染し、一度感染すると除菌しない限り胃に留まり続けます。そして慢性的に胃炎を引き起こし、胃がんになる可能性を高めると言われています。ただし、近年のピロリ菌感染率は低下傾向にあります。上下水道が十分普及していなかった時代に生まれた方の感染率が高く、1950年代生まれの方方が2人に1人感染していたのに対し、1990年代に生まれた方は7人に1人、2000年代に生まれた方は16人に1人まで低下しています。
また、食生活も大きな影響を与えます。塩分や脂肪分が多い食事や、加工食品は胃がんになる可能性を高めると言われています。さらに、喫煙や過度のアルコール摂取も胃がんのリスクを高める原因と言われています。禁煙すること、塩分や塩分の多い加工食品の取りすぎに気をつけること、節度のある飲酒が予防に重要です。
一部ではありますが遺伝的な要因で胃がんになることもあります。50歳未満で胃がんと診断された場合、血縁者に同じ種類のがんと診断された方が複数人いる場合、1人で複数のがんと診断された場合などが該当します。
初期段階ではほとんど症状がないことが多く、進行しても症状がでないこともあります。代表的な症状としては、みぞおち・上腹部の不快感や痛み、食欲不振、体重減少、少しの食事での満腹感、吐き気などが挙げられます。ただしこれらの症状は胃炎などでも出現するため、全てが胃がんの症状というわけではありません。
がんから出血することで、血を吐いたり、黒い便(血液の中の鉄分が空気に触れ黒くなります)が見られることがあります。持続的な出血で貧血になると、立ちくらみや息切れ、体のだるさ、体力の低下を感じるようになります。ただし胃潰瘍のような良性の病気でも出血するため、同じ症状がでることがあります。
いずれにせよ症状だけで胃がんかどうか判断することは困難ですので、これらの症状が見られる場合は、早めに医師に相談することが重要です。
すべてのがんの検査は大きく二つの段階を踏みます。まず「がんかどうかを確かめる検査」を行い、次に「がんの進行度(進み具合)を調べる検査」を行います。
胃がんの場合、がんかどうかを確かめるには、内視鏡検査やバリウムをつかったX線検査で病変の有無や場所を調べます。すでに胃がんが疑われるような症状があり医療機関を受診している場合は、内視鏡検査が行われることがほとんどです。
内視鏡検査は口や鼻から5〜10mm程度の管状のカメラを挿入し、胃の内部を直接見る検査です。喉の局所麻酔で検査を行う病院もありますが、さらに当院では鎮静剤を使用して苦痛を減らして内視鏡検査ができます。
内視鏡検査で疑わしい部位があった場合、その一部をつまんで取り、顕微鏡でがん細胞の有無を確認します(病理検査)。この病理検査でがん細胞が見つかったとき、初めて胃がんという診断になります。病理検査ではさらに胃がんのタイプ(組織型)を調べます。胃がんのタイプによっても治療方針が異なってきます。
胃がんの診断がつくと、次にがんがどこまで進行しているかを調べていくことになります。通常は造影剤をつかったCT検査を行い、胸からお腹にかけて異常がないかを調べます。リンパ節転移や遠隔転移がないかを調べます。また内視鏡検査中に、がんの深さをより深く確認するために、超音波内視鏡検査が行われることもあります。超音波内視鏡は胃カメラの先端に超音波が備わったもので、先端を胃の壁に当てることで壁の中まで確認することができます。
その他、MRI検査やPET検査などで多臓器への転移の有無を確認することがあります。
これらは、がんの進行度に応じた適切な治療を行うために重要な検査となります。
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